シングルエステートであるということ
ヴェローニ農場のエクストラバージンオリーブオイルは、シングルエステート、つまりひとつの農場からとれたオリーブを原材料としています。そして、まるでヴィンテージワインのようにそのラベルには収穫された年の年号が刻まれます。その一年、その土地に降り注いだ雨、風、そして太陽の恵みが、そのボトルに詰め込まれています。

 一方、世界的な大きなメーカーのオイルは、たとえエクストラバージンオリーブオイルと銘打っていても、その内容はヴェローニ農場の物とは大きく異なります。世界中に均質な品質で商品を提供するためには、単一の農場では収穫高が全く足りませんし、品質も年々の出来具合に左右されてしまいます。それ故に、原料となるオリーブオイルは様々なオイルを大量に用意してブレンドして瓶詰めしています。ECの場合、たとえばイタリア産となっているオイルでも、その原料となるオリーブはスペイン、トルコ、ギリシャなど様々な場所であることがほとんどです。これは、ECの規定では全く問題はありませんし、オイルをブレンドするということも、それだけで品質を低める物ではないので必ずしも非難されることではありません。

 しかし、こういった大きな産業の仕組みの中では、昔ながらの手間のかかる製法や、本来守らなければならない大切な事柄が、生産性とコストという命題により、おろそかになってしまっているというのは、悲しいことに現代社会の大きな問題でもあります。



 いうまでもないことですが、オリーブオイルは農作物です。決して工場で生産されるような物ではありません。青々と茂る美しいオリーブ畑から収穫された黄金の一滴。それがオリーブオイルです。長い歴史の中で大切に育てられたオリーブの木は人間の何倍もの樹齢でありながら、毎年美しい実をつけ、人々はそれを享受しています。オリーブの木にはいくつもの品種があり、その栽培方法、収穫の仕方、そして搾油の方法などで、できあがるオイルは大きく異なります。黄色く澄んだ透明な色を特徴とするオイル。搾油の際に実の成分を完全に濾過しないことで生まれる淀を味わいとするオイル。口の中にほんのりと残る甘みが特徴のオイル。味わい以上に香りの強いオイル。オイルの特徴はその地方や文化によって様々です。

 世界最高峰のオリーブオイルの産出国イタリアでもっとも高級な、そしてもっとも気高いとされるトスカーナ地方のオリーブオイルは、他にない非常にはっきりとした特徴を持っています。強く鼻孔をくすぐるはっきりとした若草の香り、そしてピリッとしたスパイシーな風味。これほど輪郭のはっきりしたオイルは世界中も希であり、それ故にトスカーナ産のオイルは、長い間世界中のオリーブオイルの中で最高峰の地位を保ってきました。比較的中級なオイルなども、仕上げのブレンドがトスカーナ産であることはめずらしくありません。非常に風味がはっきりしていますので、多少曖昧なブレンドオイルも、トスカーナ産を加えることで存在感が引き立ちます。それほどに、トスカーナ産のオリーブオイルは明快で、他の追随を許しません。



 シングルエステートの、そして丁寧に生産された一品というのは、そういった特徴的なオイルをそのまま味わうということです。それは、その地方にはぐくまれた文化、そしてその大地と触れ合うということです。長い歴史と共に作られた鮮やかで繊細な風味。それをそのままに味わうという喜び。今ではそれすら贅沢と言えるのかもしれませんが、しかしこれが食本来の持つ喜びでもあるはずです。



 エクストラバージンオリーブオイルと一口に言っても、全く中身が違うということがおわかりいただけたでしょうか?

残念ながら、スーパーでエクストラバージンオリーブオイルとして陳列されているほとんどのオイルはシングルエステートではありません。シングルエステートのオイルは生産性においてこれらの商品と同じような流通には乗せられないからです。ですので、残念なことに多くの人々はせっかくのお金を、名ばかりのエクストラバージンオリーブオイルに使い、その本来の姿を知らないのかもしれません。オリーブオイルはちょっと香りの付いた緑色の植物油、スーパーに並んでる品揃えだけでは、そんな印象しか持ってもらえないのではないか、そんなことまで危惧してしまいます。たとえばヴェローニのような、紛れもないトスカーナ産のシングルエステートのオリーブオイルを味わっていただけたら、その考えは全く変わってしまうのではないかと思うのですが。vintage 2008年のラベルです。
author:, category:オリーブオイルのお話, 18:54
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